第三十七話 戊編
2000コメント記念アンケートで「季布がタイマン(一騎打ち)するところ」 が見たいと答えてくださった方、ありがとうございました。
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張正 （ちょうせい） 字（あざな）は賀賦（がふ）。藍田の生まれ。 秦に仕える武官の次男に生まれた。 彼の家には、次男を秦王の親衛兵として出仕させるという伝統があり、彼もまた加冠するや父や兄のもとを離れて咸陽に入った。（ちなみに、第四話後編で始皇 帝に近侍している衛兵は彼の次男・張不害である） それから間もないうちに王が次々と死亡し、目まぐるしく代替わりが行われたが、最終的に同名の王が即位してしまったため、避諱して名を「張廷」と改めてい る。 彼の人生の転機となったのは、秦王九年（前238年）に起きた長信侯・嫪毐（ろうあい）の反乱事件である。嫪毐は当時、秦王や仲父・呂不韋をも凌ぐ絶大な 権力を有しており、張賀賦の父や兄弟も皆嫪毐の軍に属していた。しかしなが ら賀賦は、勧誘に訪れた弟を斬って秦王への忠誠を示すと、内戦で荒廃する咸陽宮の中にあって若き王を 守り続けた。王は彼の態度に感激し、彼に元の名である「正」を名乗ることを許したという。（ただし、その後も彼は「張正」を名乗ることはなかったが。） 反乱は秦王の勝利とともに鎮圧されたが、反乱側に与した彼の 父は処刑され、兄は蜀に流罪となったため、彼が家を継ぐこととなった。 秦 王が全国統一を目標とした積極的な外征を始めると、彼も咸陽を離れて各地を転戦した。長らく軍侯を務め、新鄭攻略戦や邯鄲攻略戦などに従軍。秦王二十二年 （前225年）に王賁将軍の都尉に抜擢され、魏国攻略戦に参加した際には、水没した大梁に舟を浮かべ、降伏した魏王の身柄受取を指揮している。 秦が統一を果たし、秦王が皇帝となると、彼は多年の功績から野王の県令となった。衛の古都であった野王は反秦、任侠の気風が強く統治の難しい地であった が、これをよく治めたという。 個人的に狩猟を好んだが、その腕前は趣味の域を超えており、各地で開催された巡狩でも度々騎手に選抜された。このことは数々の出土文献にも記されており、 瑯琊台刻石にもその名が記されている。（現在は消失。） 陳勝・呉広の反 乱が起き、全土に飛び火すると、野王でも小規模な反乱が起きたが、早急な対応により被害を最小限に留めた。この事件の顛末については、当時県の主吏として 勤務していた呂遂が著した「叛賊記聞」によって詳しい。 章邯の反撃により、陳勝の張楚国が壊滅すると、反乱軍の包囲から開放された滎陽の李由将軍の招致を受け、その護軍と なる。（もっとも、これは李由が独断で行ったことらしく、秦の公文書では軍司馬となっている。） 韓成率いる韓再興軍との戦いでは、敵の伏兵を看破するなど活躍するが、楚の項籍との決戦となった雍丘の戦いで戦死している。 彼を討ち取った河東郡太守の季布（当時は楚の騎兵隊長）は、後に彼の壮絶な最期について 「こっちも必死だったし、相手のこととかよく覚えてない」 と語っている。 |
元ネタ解説