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外伝6 「 劉邦 」

 




 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


















 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 


元ネタ 


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【雑記】(読まなくて大丈夫です)

・盧綰について



劉邦と同月同日、同じ里に生を受けた盧綰(ろわん)は、その特異な生い立ちもあって劉邦が最も信頼した男である。

早くから劉邦の主力軍とは別に軍を与えられ、大陸各地を転戦した曹参(そうしん)と、

劉邦が軍中にある間、常に後方を守り続けて支援した蕭何(しょうか)こそが、劉邦軍団生え抜きにおける文武のツートップといえるが、

その二人でも及ばぬほどの厚遇を常に受け続けたのが、この盧綰である。

彼には単独の武功や、印象的な献策などが記録されていないため、単なる「劉邦の幼なじみ」以上の評価を与えられることは多くない。

だが、各々が己の功績を誇ることが頻繁であり、時として派閥抗争が起きることも珍しくなかった劉邦家臣団にあって、

盧綰の厚遇は他の家臣から目立った非難を受けることなく続いていた。

果たして、単に君主と個人的な友好関係にあっただけの人物が、そこまでの地位にたどり着けるであろうか。

最終的に、彼は王位に就く。

彼と肩を並べたものは、劉邦の血族か、黥布や韓信(×2)のような外様の王だけである。

後者の王たちは、もともと旧王族であったり、王に封じられる以前から多大な戦功を挙げていたような者たちであり、盧綰がカテゴライズされるべき人種ではない。

つまり、盧綰は劉邦から血族と同じ扱いを受けていたのであり、そのことを諸将も納得し、疑っていなかったことになる。

君主にとって、血族という存在は非常に重要である。

長い歴史を見渡せば、骨肉相食むという例外も少なからず存在するが、

基本的には、血縁関係というのは自身がもっとも信頼を置ける存在だからだ。

自身の周囲が、有能かつ無私無欲な連中ばかりであれば理想的だが、そんなことはありえない。

功績を挙げた有能な臣下には、それに見合った報償を与えねばならないが、

必ずそれに付随して、増長するもの、叛意を抱くもの、不満を抱くもの、失望するもの等々が現れる。

そういった者たちの上位に置いて、不満を抱かせることが少なく、

かつ、上位に置いてもそういった者たちに対するような不信感を抱かずに済む存在が、血族なのである。

劉邦の血縁者からは、従兄弟の劉賈や異母弟の劉交などが才能を見出され、平民出身の劉邦にとって貴重な戦力として重用された。

しかし、海千山千の武将たちの上位に置いて睨みを効かせる役割は、彼らには荷が重かった。

そこで劉邦の「血縁枠」に収まったのが、他でもない盧綰だったのであろう。

後世の我々は、野戦攻城や政策実行で名を上げた名将・名相にばかり目を奪われがちであるが、

現実世界で進行していたのは、生身の人間関係である。

前方に敵を迎え、足元では配下の動向に気を配り続けなければならない君主にとって、

常に自分の傍にあり、時に気分を紛らわす他愛のない会話で、時に他の家臣では許されぬような直言で、

荒んだ精神を均してくれることができる近臣というのは、或いは名将・名相以上に必要な存在なのである。

盧綰は、先述した劉交とともに劉邦の寝室に出入りしては、諸国・諸将の動静などを密談したという。

これは多く残されることがなかった盧綰の事績の一つであるが、彼と劉邦の特異な関係性を読み取ることができる。

いわば盧綰は、本朝でいえば、秀吉にとっての小一郎秀長、現代史ならば、JFKにおけるロバートのような、

補佐役としての近親者のポジションで劉邦に仕えていたのである。

このように盧綰は、劉邦にとって唯一無二の存在であった。

マンガの中では、どうしても視覚的に時代を動かした者たちをフォーカスしていかなければならないので、

盧綰のような人材に筆を割いていくことはあまり多くはないだろう。

ただ、歴史上の人物の評価に値するものは、記録に残った、目に見える勝ち星や実績だけではない。

その時代の、リアルタイムの、生身の人間同士のやり取りの中で培われたものが大きく影響するのだ。

そんなようなことを常々マンガの中で表現していきたいと思っているので、

(マンガでは何ページになるか分からないので)この場でその好例として盧綰について長々と語らせて頂いた次第である。








しかしながら、盧綰本人を秀長やロバートと同等に評価することは、それもまた肯定はできない。

彼が最後の最後で劉邦に与えた衝撃は、マルモンがナポレオンに与えたそれであり、ブルータスがカエサルに与えたそれであったからだ。

彼の仕事と、その栄達は、群臣からどう思われていたかは記録の上からは明らかではないし、表層化することもなかった。

ただ、彼が王となった後、その最後の悲劇に出演する役者の一人が、後の時代の権臣の代名詞たる審食其だったことが、

彼の陰でありながら陽であった生涯を、暗示しているかのようにも、思えてならない。